亡国のイージス/福井晴敏


亡国のイージス(上) 亡国のイージス(下)男子の男子による男子のための小説

女子がジーンズを穿くのなんて当たり前だし、SCHOTTのライダースをハードに着こなすのだってナシではない(個人的にはナシだけど)。だけどスカートを穿く男子はスコットランド人でなければ変態だし、そのスカートがピンクハウスだったら国民の義務として通報しないといけない。加藤あいはスーツで男装しても可愛いけど、成宮寛貴がワンピースを着るのは想像したくない。まずこの点で女子は得をしている。
また、イブニングに安野モヨコが『さくらん』を描いていたりすることから講談社ヘヴィーリーダー向け雑誌にも女性読者は少なからずいると思われるけど、りぼんやマーガレット、レディコミを読んで(いる)いたという男には会ったことがないし、究極は週刊”少年”ジャンプ。『ONE PIECE』や『HUNTERxHUNTER』に盛り上がるのは男女問わずだけど、『テニスの王子様』に盛り上がる男なんてまずいない(サマソニで観たエレキコミックがそれを更に悪意込めてネタにしていたけど、普通にうけていたから同意者は多いのだと思っている)。なかなかに無理矢理だけど、やっぱり女子は得をしている。
そこで考えてみる。 男子の聖域はあるのかと。僕の結論は抽象的にガンダム。具体的にはメカだ。ガンダムを語るなという女子の意見はよく聞くし、ガンダムに理解を示す少数の例外がいても、その対象はシャアだなんだというキャラの話であって、キュベレイやサザビーがどうだといったMS話には少しも反応しない。というかZ以降までくることがない。言い過ぎるなら、ガンダムはジェンダーを超えないのだ。

この『亡国のイージス』はそんな男子聖域から男子のためだけに発信された。
特筆すべきは船、ミサイル、銃器等の描写の異常な細かさ。男子たる僕にしても半分ぐらいしかわからない(故にリアルなのかどうかもわからない)。これがつけいる隙を与えず、完膚無きまでに女子を拒絶する。だって女子の皆さんはクルツやジェットライダーの形状がどうとか興味ないでしょ?それが結果にこういう影響があったんですよ、と言われても「ふーん」でしょ?なんなら戦闘シーンなんて結果だけ教えてってところでしょ?しかし”男子”はここに手に汗握るわけです。もっというと、この小説の面白味の半分はそれなのです。

実はここでの描写はストーリー上ほとんど何の意味もなかったりする。正直に言うと前述の通り、半分ぐらいはわからない僕は流してしまうところもあった。では何故そんな流されてしまうものが大事なのか。それは、当たり前だけど、わかるひとのためだ。
例えば僕は船、銃器にはあまり、というかほとんど思い入れがないのだけど、エリア88が大好きだったので、戦闘機にはちょっと蘊蓄がある。だからF15登場のシーンで、何故ファントム改じゃないのかなどといったことには引っかかってしまう。もちろん、そこには偏執的な説明が加えられるので文句になることはないけど、そこを怠るととたんに話はリアリティーを失ってしまう。「他の飛行機知らんのとちゃうか?」とか、「F15が好きだからって無理矢理出したんちゃうか?」とか疑い出すと、その疑いは知りもしない潜水艦にまで向けられ、一気に求心力を失う。
これがガンマニアだとか軍ヲタだったらなんて推して知るべしだ。話にのめり込めばのめり込むほど、ディティールへの目が厳しくなる。裏切らないでくれと祈りながらも、自らの知識が粗を探してしまう。そして、ひとつの戦闘をミスなく終えてくれると、ほっと安心するのだ。そこにはまるで綱渡りのような緊張と緩和がある(知らんけど)。だから決して手を抜けない、大事なところなのだ。

正直いって文章はそれほど上手いと思えない。特に主要5人ぐらいを除く人物の描写がいい加減だ。巻頭に登場人物が全員書いてあるけど、それを駆使してすら、この人は誰?どんなキャラだっけ?としょっちゅう思う。いちいち主人公ほどのスペースを割いていたらとんでもない厚さになってしまうのでやむを得ないとも思うけど、その少ない行で効果的にキャラを書き分けることができなかったのが惜しいと思う。と同時に、それでもメカや戦闘をメインにこれを楽しめるのが男の子だとも思うのだ。

大森望は次作『終戦のローレライ』を最大最強のガンダム小説と評した。2005年3月現在未読なので、ローレライ=ホワイトベース?と想像するとか、この『亡国のイージス』に皆殺しの冨田よろしく特別な感動もなく登場人物が死にまくるぐらいの共通点をみつけるぐらいしかできなかったのだけど、アニメ夜話でガンダムについて語った福井晴敏を見て、なんとなく見えた気がする。上手いこと表現できないので書かないけど、多分そういうことだ。そして、そんなものを劇場公開していけるのだろうか?妻夫木君が出てるから大丈夫なのだろうか?

ところで散々言い切っておいてからなんですけど、実際のところこの小説読んだ女子っているんですかね?更におもしろいと思った女子。いたら感想メールくれると嬉しいです。
(05/03/20)

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