グレイゾーン/RHYMESTER


最悪のタイミングでリリースされた最高傑作

誰がなんと言おうと日本のヒップホップをど真ん中で支えてきた代表格はライムスター(以下ライムス)だ。売り上げは同期のEAST END、後輩のRIP SLYME、KICK THE CAN CREWといった他のFG勢に大きく引き離されてきたし、認知度でいってもDRAGON ASHと組むことで上手いこと時流に乗ったZEEBRAとは勝負にならない。nitro microphone undergroundあたりから興味を持った若者の認識はナンバーワンはジブさんということになるんじゃないかと思う。(それすら知らんような子供のことは知らない)
しかし黎明期から途切れることなくグループ活動を続け、時代の節目節目で重要なアルバムシングルをリリースし、そして意外とこれが重要だと思うのだけど、上記を始めとするシーンの中心、及びその周辺の全てと主に客演というかたちで絡み、誰にもリスペクトを受けている。そんなグループはライムスだけだ。セルアウトせず、ハーコーに媚びず、いつの時代もひたすらライムス流の最高のライムとフローをお届けしてきた。

MCはよくスキルだテクニックだという表現を好んでするけど、ライムスターを踏まえてまでそんなことが言えるMCなんて殆どいないはずだ。言い出したらきりがないけど、ふたつほど引用させていただく。

> 偶然横に腰掛けた直後に相談持ちかけられた 「最近少し倦怠期 私から再起目指す気もないし
> それよりオレの事知りたい」とちらつかすスカートは飛びきりタイト 
> ファイト始める天使と悪魔 勝負がつくのは瞬く間(mummy-D”隣の芝生にホールインワン”)

『リスペクト』リリース当時のこと、下北ディスクユニオンで英米ロックの中古を物色していた僕の耳はこの一節で釘付けになった。 調子合わせの無意味単語やヒップホップタームは皆無。話し言葉というボキャブラリーの中だけで見事に韻を踏み倒し、ストーリーを成し、かつ耳に残りながらも実にスムーズに流れる。
同じ曲でこんなパートもある。今度は宇多丸師匠。

> 連絡先メモしたフライヤー 差し出す左薬指にはダイヤ
> ただしキュービックジルコニア かなわんよ ああ見事に演じるコには


曲のテーマを完璧に捉えているのはもちろんだけど、キューニックジルコニアっていうボキャブラリーはどうだ。そこらのMCが10年続けたって出てこないだろう。ここで最後のフック(サビ)に行く前に「ナイス イン!!」というみんなのゴルフからのサンプリング。ライムとフローにインテリジェンスとユーモアが加わったのだ。無敵だ。
ギャング指向のハーコー勢はもちろん、肩の力の抜けきったLB系(御大SDPは別だけど)ももうひとつ自分の肌に合わず、やっぱり日本語でヒップホップはきついのかと思っていた時期、これにははまった。聴き倒した。
ストリートのワルモノでもハイテンションなロッカーでもなく、かといって代官山あたりでだらーっとするのも性に合わない、流れで大学まで行っちゃった半端なインテリ気取りがついに自分の音楽を見つけたという気分だったのだ。

それ以来いつでも僕の心のナンバーワンであり続けたライムスが、2004年に作り上げたのがこの『グレイゾーン』。タイトルがそのまんま意味することには賛否両論があるようだけど、そのグレイ加減にこそ僕の心は捉えられたわけだから実に言い得て妙。
TBHのボス以外ならどんなゲストでも呼べそうな彼らがあえてノーフィーチャリング。しかしノー不足。
基本はロックファンの僕の耳を引きつけた”となりの芝生にホールインワン”の魅力はそのままに、更に強力なアゲアゲテンションとメッセージを加えてきたこのアルバムは、僕がこれまで聴いてきた全てのアルバムの中でもトップ10に入る歴史的名盤。”ザ・グレート・アマチュアリズム”、”グレイゾーン”のダイナミズムはロックファンの耳にも響くはずだし、”フォロー・ザ・リーダー”、”911エブリデイ”のメッセージにはうならせられる。そんな胸焼けしそうな濃い曲の間に”BIG MOUTH”、”おぼえていない”の笑いが清涼剤として働く。まったくもって文句のつけようがない。

しかし、そんな最高傑作のリリースタイミングは最悪だった。AVEXが始めたCCCDが日本盤新譜の実に半分以上にも及ぼうかという時期。
蛇足になるかもしれないけど、僕はどんな音楽をやっていようが、基本的にジャンルによってCCCDに対するスタンスに違いが出るということはないと思うけど、ヒップホップはちょっと違うとも考えていた。ソウル、ジャズ、なんならポップ、ロックからでも美味しいところをいただき、その上でラップしてきたこの文化の住人はコピーされて、いじられてなんぼだったのではないか。なのにサンプリングの王様(?)MURO、うるさがたのK-DUB SHINEがCCCDでのリリースに対しなにも言わなかった。実に嫌な流れだったと思う。
我らがライムスもこの流れの影響を受けた。所属している(キューン)ソニーも大手のご多分に漏れずレーベルゲートという名前でそのうんこ技術を採用していたため、その流れが彼らのアルバム。シングルにも及ぶであろうということはまず間違いのないところだった。僕はライムスまでCCCDを認めるのかと悲しくなっていたのだけど、やはり彼らは違った。CCCDを回避できなかった先行シングル”現金に体を張れ”の中で宇多丸師匠は言った。

> ねえ、シャッチョさん遊んでかない?モチぼったくるよ でも損ではないよ
> 例のゲートの通行料よりはまともでしょ? いわば授業料

言わずもがなだけど、この「例のゲート」はレーベルゲート(CCCD)のことだ。宇多丸師匠は逃げも隠れもごまかしもせずインタビューでそう断言した。シャッチョさんはソニーの社長のことだとも。
Dさんもカップリングの曲とはいえ、もっとダイレクトなことを言った。

> ファックコピー、ファックコピーガード

結局この『グレイゾーン』はCCCD回避できなかったのだけど、僕は買った。そんなに売れてもいない彼らが、自分のため、そしてリスナーのために大手と真っ向から向かい合ったのだ。その結果は負けかもしれないけど、誰が責めることなどできようか。宗教呼ばわりされてもいい。ライムスは信じられる連中なのだ。

それからしばらくしてAVEX松浦の変が起き、依田会長が辞任。その流れで2005年1月現在CCCDでのリリースは事実上なくなったに等しい。大変喜ばしいことだけど、ソニーがCCCDを全面採用していたのなんて大して長い期間じゃないのに、ライムスはそこにあたってしまったのだと考えると本当にタイミングが悪いとしかいいようがない。

僕はこの天下の名盤を、この素晴らしいグループの音を少しでも多くのひとに聴いてもらいたいと思うのだけど、やはりCCCDは勧められない。実に悲しい。ベスト盤でもCDで出ればそれを勧めるのだろうけど、ない以上やむを得ないので、ここはこの『グレイゾーン』をレンタルしてください。お願いします。 『リスペクト』、『ウワサの真相』も欠かすことのできないアルバムだけど、どちらも『グレイゾーン』と比べてしまうと落ちるのです。 (アナログという手があると見せかけて、その場合はシングルを別に買わないと全曲揃わない)

(KOM:05/01/24)

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